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秋の学園祭にて、ある学生と子供のお話。
ほのぼのとギャグを目指してみたら凄いことにw
参加しているサークルのテーマ「ハロウィン」で投稿しました。
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女吸血鬼・・・奴の効果は絶大であった。
あからさまに奴の甘い誘いに、ただただ純粋に釣られこの子たちは押し寄せてきた。
それを見た周りの人は驚きの余りに唖然と口を開けることしか出来ていない・・・。
俺とその女吸血鬼が開く店は単純な作りとなっている。
中は見ても他とは大して変わらぬ、黒と橙の飾りにハロウィンっぽくしているだけだ。
むしろ・・・他は飾りで客を寄せようと張り切っているのだが・・・。
「卑怯だぞセイジー!これじゃ俺のところは大赤字だろ!!」
「俺に文句言うなクロ、これを提案したのはあいつなんだぜ?」
沸々と沸きあがる、眼鏡をかけた黒髪で学ランを着た友人がズカズカと
通りかかる子供に意外と気を使いながらも、俺の近くへ寄ってくる。
狭い所では未だ蒸し暑さを感じ、学ランを脱いでもいいものの・・・。
夏でもこの姿でいる友人がこのあだ名で呼ばれても誰もが納得するものだ。
クロと呼ぶ友人は今にも噴火しそうな火山のような頬を見せ攻める。
しかし・・・自棄(やけ)になり過ぎて隙が多いぞクロ・・・。
「ミナさんがそんなことを提案する訳ないじゃないかっ!」
「いやいやいや・・・、例え俺が提案したとしてもあんなノリノリで役やるかぁ?」
「うっ・・・。」
痛恨の一撃と言っていいのか、それとも弱点を付いたと言っていいのか・・・?
俺はクロからの言葉の攻撃をサラリと避けて、腹に言葉の槍を貫いた。
今起こっている揉め事も知らずにいる・・・
ミナと呼ばれる『女吸血鬼』は実に楽しそうである・・・。
そして・・・子供たちを魅了させる桃色のオーラが漂っているのが眩しすぎる。
クロからの文句も二言で終了してしまい、肩をガックリと下げながら背を向ける。
敗北感たっぷりの哀愁を背で語り、俺は止めの一撃を食らわせようと声をかけた。
お菓子やおもちゃ、飾りや細かく切った折り紙のクズで散らかるこの店で
丁寧に踏み分けていたクロは、体勢がアンバランスになりながらも俺を見る。
ニヤリと上げた口の端を見て、サッと顔の血の気が引いたのが分かった。
「トリック・オァ・トリック?」
そして・・・敗北を感じるあまりに何か意味不明なことを叫んでクロは去って行った・・・。
そう言えば・・・最初にクロは『大赤字』と言っていたことを思い出し、俺は一人ケロッと笑って見せた。別に、あの女吸血鬼に向かっている訳でもなく、そして子供たちにも向けていない。ただ俺だけの笑顔・・・。
「全部の店を大赤字にしてやるぜ・・・。」
これが・・・俺たち大人の『悪戯』となることを・・・。
「お菓子をくれないと、悪戯しちゃうぞー!」
元々俺が通う学校は、昔からこのイベント(行事)は伝統的なものとされている。
「ただの学園祭となっては面白く無かろうに・・・」と
豪(えら)い個性的な校長先生がこの学校に居る時が昔あったらしく・・・。
その結果、学園祭とハロウィンをミックスさせてしまったのだとか。
しかしそんなイベントが俺は嫌いではない。
何故なら俺は子供が幸せそうな顔を見るのが好きであるから・・・。
「セイジー、クロちゃんが泣いて叫んで電柱にぶつかって行ったけど何したのよ?」
遊びに来てくれた子供たちの出入りが激しく
半分川のようになっている流れの中で聞き慣れた声が聞こえた。
特別なメイクで顔の肌が真っ白であり、そして唇には不気味にも赤紫の口紅が塗られている。そして黒い付け爪や黒いマントなどを身につけた・・・ミナと言う女性が店に入ってきた。
「いや?ちょっと苛めてて楽しんでいただけだが?」
「セイジは本当この日になると人が変わるわよねぇ。」
ミナは赤紫色の唇を手で隠しながら、声は豪快に笑いながら言う。
その笑いもどこかの遠い国の貴族のように、今の姿に一番相応しい者となっていた。
そしてその姿に魅せられた子供たちは、まるで餌を追う魚のように寄った。
無邪気に笑う子供たちはお菓子を求めて、カウンターとなっている俺のところに詰め寄る。
「お兄ちゃん、ペロペロキャンディー頂戴!」
「うわぁ!ゴメンよ僕ちゃん、今品切れだから板チョコを2枚あげよう!」
「やったぁ!」
からっとした笑顔を見て、思わず頬が緩むのを見てミナは再び笑う。
「とりあえず、周りの店にはいい迷惑かもしれないわねぇ。」
「無理もないだろ、クロが電柱にぶつかったほどなんだからよ。」
子供は辺りに散らかる紙くずを拾い天井へ放り投げ、白い紙ふぶきが漆黒の髪に降りかかる。
お菓子を貰った子供たちは、楽しそうに友達とお喋りしながら食べている。
そんな姿を見たいと言い出したのがこの・・・女吸血鬼なのだ。
大人は店員である俺たち以外は立ち入り禁止にしており
ここは完全に子供たちだけの世界となり、大いに喜び走り回る。
今の大人たちは・・・この姿を見た者はいるのだろうか・・・?
「吸血鬼だったら俺が仮装した方が寄ってきたと思うんだけどなぁ。」
「何よ、別に女の吸血鬼が居たっていいでしょうよ?」
「まぁいいけどさ・・・。」
小首を傾げ口を尖らせたミナを見て、俺は呆れつつも棒読みで返答した。
確かに女吸血鬼でも効果はあった。
・・・が。
「お兄ちゃんお菓子頂戴ー!」
「コラッ!小悪魔の尻尾で遊ぶな!」
「え?悪魔だったの?アリかと思った・・・。」
「ハロウィンなのにアリに仮装する奴なんているかっ!!」
素でボケられた身になり、溜め息吐きつつも女吸血鬼に向かって怒鳴り散らした。
だが、そのやり取りを見た子供たちも、面白おかしそうに微笑む。
(幸せな日々が・・・この子供たちに続けばいいのに・・・なぁ。)
そう俺は、本気でこの店を毎日運営しても良いのでは無いかと一瞬思った。
しかし・・・そんな思いもその女吸血鬼がいるからこそ続けられないものである。
「じゃ、また宣伝しにまわって来るから、店番宜しくねー。」
「あっ!ミナ!お前少しは店番の手伝いを・・・ゴラァ!!」
・・・子供の世界に迷い込んだ、学生達のお話であった・・・。
趣味は絵や小説を書くこと。
嫌な事が目の前にあるとネタの神様が降臨します。神様の存在はコレしか信じられない駄目人間←