忍者ブログ
空乃鴉が運営するブログサイト。ノベル中心。
[38]  [37]  [36]  [35]  [34]  [33]  [32]  [31]  [30]  [29]  [28
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

===================
少女が老婆に出会い別れた話です。
何だか最後はすっきりしませんね・・・私も(ぁ
===================






―――リリィィィン・・・・・・



涼しげに鳴り響く風鈴を見上げながら、少女は溜め息を吐いた。
ギラギラ輝く太陽はとっくに沈み、少々気温は下がったのだろうがまだ蒸し暑い。
しかしそんな暑さももう後半へと向かっており、葉も紅く染める準備へと入っていた・・・。
燃えるような赤い髪に、漆黒の大きな瞳。それが少女の外見の姿であった。

少女が今夜泊まっている場所は、間違えても一般の宿屋などではない。
どう見ても人の家、しかも家主は老婆・・・。

しかし、少女を自身の家へ止めておいて特に気を悪くしたような表情一つ浮かべない老婆。
むしろ少女が来て嬉しそうな、愛想のある笑みを浮かべていた。
台所でコップに注いだお茶をお盆に乗せて、少女の元へと持ってきた。



「ホラ、お茶を持ってきたから飲みなされ。」

「ありがとうおばあちゃん♪」



一見普通に娘が両親の実家に帰っている・・・と見えるものだがそうではない。
少女は無邪気な笑みを零しながら、お盆に乗せてあるお茶を手に取った。
老婆はその笑みを見て、また孫を見ているかのように微笑んでいる。



元はと言うと・・・この老婆は戦場にて生死を彷徨わせていた・・・。
老婆を囲むのは、人間の心から食らい命を奪う魔物の群。
悲鳴を聞いて駆けつけたのがこの少女であった。

体格合わずに大きな剣を担いで、老婆の周り囲む魔物を全てその刃で斬り倒したと言う・・・。
人生を長く経験していた老婆であるが、このような者の存在は初めて見たらしい。
魔物が居なくなっても暫くは放心状態でいたのだが、少女は慣れた表情でいた。



少女のように純粋な心を持つ人間であり。
そしてこのような大人よりもずば抜けた力を持つハンターを人々は『クルス(剣の舞)』と呼んだ。



「噂では聞いたけど、まさか貴方が『クルス』だとはねぇ・・・。」

「でもおばあちゃん、『クルス』もそんな強い訳じゃないのよ。未熟な内の人生なんてほとんどあっと言う間よ。」



少女はそう言うとゆっくり飲んでいたお茶を急にグビッと一気に飲み干した。
しかし老婆は微笑んだままであるが、少々寂しげな色が現れ
それに気がついた少女のもう一人の存在が姿を現した。



「ヴェン、それを老婆に言うことじゃないだろう?」

「これはこれは・・・ヴェンちゃんのお仲間ですか?」

「ちょっと・・・!何で出てくるのよ!」



ヴェンと言う少女は、思わぬことに驚いて困惑しながらも叫んだ。
叫んだ相手は、RPGの世界ではよく知られている魔物・・・いや、悪魔の存在であった。
血が通わない青白い肌、尖った耳にチラリと見せる鋭い牙を持つ。
自分の身にまとうのは全て漆黒に染まった高級そうな布で、存在は一目で分かるようになっていた。

そう・・・暗黒界のリーダーとも言われているヴァンパイアの姿である・・・。

彼とヴェンは特定の場所で、人間と魔物での契約を交わしており、共に旅に出ていた。
しかし、何故魔物と戦う間は手を貸さずにこの時だけ現れるのか・・・。
もし老婆が今ここにいなければ、ヴェンはこのヴァンパイアを蹴り飛ばしていただろう。



「おばあちゃん・・・ごめんなさい・・・。」

「いいのよヴェンちゃん、クルスの子たちも充分に大変だって分かったからねぇ。」



老婆は半分驚いた顔、半分は驚いた反面困った顔をして慌てて止める。
そしてまた・・・風に吹かれて流れた調べで辺りの気温を下げた。
・・・夏の夜に歌う虫の合唱は、また寂しく切なく聞こえた・・・。










穏かな雨が振る午前、ヴェンは傘も手にせずに山道を歩いていた。
前に訪れた時はここも、こんな豊かな緑など一つも無く荒野となっていた・・・。
それを今、この場と照らし合わせれば苦笑せずになどいられない。



「元気で良かったのかな・・・おばあちゃん。」

「・・・・・・。」



ヴェンの問いにはあえて答えずに、ヴァンパイアは緑覆い茂る森を見るだけである。
分かっているのであれば無駄な問い出しなどするなと言う事なのだろう・・・。



「寂しそうにしていたのは、もしかして分かっていたり・・・?」

「ヴェン。」

「ハイハイ独り言は止めますy・・・」

「違う、あの老婆は元々クルスの一員だったんだろう。」



「・・・・・・へ?」



思ってもいなかったヴァンパイアの言葉に、ヴェンは一瞬思考停止しかけた。
特に気にした様子も無く、脳からただ並べるようにヴァンパイアは続けた。



「あの時、助けられた時に驚いたのは自分も所属したクルスの一人に会えるとは思わなかったから。
 それに、迫る刻の察しなんてクルスであるお前以外は不可能だろう?」

「じゃあ・・・分かってて残って・・・?」

「もう遅い・・・だろうな。」



この緑も、再び紅い魔の手に捕らわれて灰となってしまう。
しかし、美しく鳴っていたあの風鈴だけは手に残る・・・。
助けてくれたお礼だからと貰った、あの老婆の形見として・・・。

ヴェンは一度だけ振り返り、闇に包まれていく様子を見ながらで目的地へ向かう足は止めない。
今回与えられた任務は終了した・・・『老婆の為に戦場へ墓を立ててやれ』と・・・。



「さて、次の依頼に移るわよ!」



PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
MAIL
URL
コメント
KEY   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
マスター
HN:
空乃 鴉
性別:
非公開
自己紹介:
これでも学生。
趣味は絵や小説を書くこと。

嫌な事が目の前にあるとネタの神様が降臨します。神様の存在はコレしか信じられない駄目人間←
コメント
[01/07 結音]
material by:=ポカポカ色=
忍者ブログ [PR]