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短編小説としてupした手紙の続編らしきものです。
今回は騎士とシスターのお話であります。
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聞こえるかい?あの時と同じ歌と
見ていたかい?あの時と同じ雲を
俺は何も考えずにいると、つかみに駆け出してしまいそうだよ。

酷く醜い嵐が吹き荒れ、静まった頃に俺はその場から離れた。
あれからもう一ヶ月も経っていると言うのに・・・何故か俺は・・・。
不器用と知っていながらも、飛んでいく紙切れを待つあいつの顔を浮かべると書きたくなる。



今から2日ほど前、俺はある教会を訪れた。
それはこの国では知らぬものが居ないと言われるほど、立派で歴史を何千年と時を刻んでいる。
しかし歴史を刻みながらも、そこでの暮らしはまるで猫のようなのんびりとした生活であった。

見渡せば日の光で混じった青白い空間、彩られた名の知らぬ花、名の知らぬ者が描いた絵・・・。
中身は他の教会とは変わらないと思われたのだがそうでもないらしい。
何せ・・・何千年と言う時を刻んだ教会だと言うのに、ありのまま保たれているのだから・・・。



―――コンッコンッ



その時、外からノックされた音が耳に飛び込み、思わず身を震わせて振り返った。
敵の侵出がある訳などないのだが・・・俺の目の前に置かれている紙切れを見て頭を掻いた。
そして手から離れたのは・・・錆び付き始めている金属のシャープペンシル。



「入りますよ?ラルフさん。」

「あ・・・あぁ。」



ガチャリと響いたドアの音は、綺麗に部屋中を響かせた。
入ってきたのは息を飲むほど美しいシスターであった。
っと言うのも何度か会っている為顔知りとなっているのだが・・・。

顔や髪以外はすべて黒い布で隠され、いかにもこの世で想像されるシスターである。
化粧された後も目立たずそれでも白い肌を保ち、更には笑顔も加えると誰もが見惚れるだろう。
シスターはカップを乗せたトレーを運びに来てくれたらしい。



「お茶を入れてきましたので、宜しければどうぞ。」

「ありがとう・・・。いきなりの訪問なのに本当悪いな・・・。」



そう言うとシスターはまるで無邪気な子供のような笑みを作り、首を振った。
俺はシスターからお茶を受け取り、小さく波立てる茶色い液体をボーっとして見た。
教会の造りがどうであれ、ただ同じなのは・・・。



「あら・・・ラルフさん、誰かへ手紙を・・・?」

「・・・ちょっと、旅先で会った友達にな・・・。」



シスターは興味を示したように、テーブルに置かれた紙をまじまじと覗き見た。
しかしその紙には何度も消しゴムで消した、ボコボコになった跡しか浮かんでいなかった。

あの時自然には書けたものの、それ以降はまるで不器用だと俺に改めて教えるかのような、下らないことばかり書いては送ってしまっている・・・。
それを察してなのか、シスターはクスリと笑った。



「ラルフさん、手紙は深く考えずに、リラックスして想いを伝えるものなのですよ?」

「・・・・・・。」



答えを業と聞かないかのように、そう言うと直ぐにこの部屋から去ってしまった・・・。

俺は唖然としながら・・・しかし今まで睨んでいた紙を前に、真顔になって再び顔を合わせて見た。何を伝えるか、それさえも浮かばないと言うのに・・・。
再び自分でも分かる困った表情になって頭を掻いた。

窓から照らす太陽は、書き始めた時よりも随分と傾いていた気がした・・・。










暗い踊り場に、小さく儚い星たちは懸命に踊っていた。
瞬く光に、それを支配するような青白い満月が浮かんでいる・・・。
あの満月も、まるで今朝見ていた教会の空間のようであった。

心地よい風が頬をかすめ、俺は目を閉じた。
教会から見えていた空き地が、盲目となればまるで前に居た丘を思い出す・・・。
あの国で一番のお気に入りの場所、そして俺が閉じこもっていた部屋の鍵を開けてきたお前がいた。

もし、ここがあの丘であればお前は待ってくれているだろうか?
今、書いては消していたクシャクシャになった紙切れを笑って受け取ってくれるのだろうか?
背後を振り返って、舌を見せているお前がいたら言ってられるのだが・・・。



「よい子はもう寝ている時間だぞ」っと・・・。



「ラルフさん・・・?」

「・・・シスター?」

「シスターと呼ぶのは止めて下さいよ、カルラとちゃんと名前があるのですから。」



背後にいたのは、午後にお茶を持ってきてくれたあのシスターであった。
彼女はあの時と同じ姿でいて、まるで過去からひょっこり現れた未来人のようにも見えた。
いつ見ても目が釘付けされてしまう程の美しさがある・・・。
カルラは微笑みながら、俺に例の事を問い出した。



「ラルフさん、そう言えば手紙はもう書けましたか?」

「いや・・・でもあと少しで書けそうな気がするよ・・・。」



俺は夜空を見上げながら言い、するとカルラはまるで安心したような表情へと変えた。
だがその安心したような顔を見れば、手紙のあて先人のことを思い出して仕方がなかった。



「どうしました・・・?」

「・・・昔に、ある街に訪れたんだ。」

「え・・・?」



カルラは俺の言葉を聞き、あまりにも唐突な話に目を大きくして声を漏らした。
だが、そんな様子さえも気にもせず、俺は言葉を続けた。
昔訪れた街と、今いる街をまるで照らし合わせながらも・・・。



「その街にも、シスターがいる教会のようにとても立派な教会があったんだ。
 白い十字が立てられたその教会を、遠くにある丘から眺めるのが好きでいつもその場にいた。

 その十字架がを見ると何だか落ち着いて、その時だけ・・・
 その時だけ俺自身が特別の存在になったかのような感じがしたんだ。」



囁くほど、こぼれていくかのように語る声は己自身驚いたものである・・・。
静かな闇に溶け、彼女に声が届いたのかすら分からない。
俺は未だ心に、鮮明に残る記憶と言う名の映像を繰り返し見ながら話した。

再び風が吹き、次はカルラの髪をまるでスローモーションのようにゆっくりと揺らした。
瞳に迷いの色、口は何か言いた気にゆっくりと動いていたのが分かった・・・。



「十字架は神聖な心を表し、邪悪な者を消し去る武器にもなるのですよ。」

「武器・・・?」



振り返ると、カルラは俺の腰辺りを指している。
その指の先は・・・俺が愛用している銀色に光る『剣』・・・。



「ラルフさん、貴方は・・・守りたい方がいるのだからこそ、十字架を背負うのでしょう?」

「守りたい者・・・か。」

「守りたい方に危険が無い時は地に、鞘に納め、そしてこの十字架もそれを描く物・・・。
 だから、地に突き刺された十字架を見れば安心出来るものなのですよ。」



カルラはそう言い切ると、突如我に返ったように目を見開き、すると恥ずかしそうに頬を赤くした。
普段は大人しく口数も少ないものなのだが・・・。
彼女が夢中になり話した言葉は、既に俺の心へ深く刻まれていた。

教会の神父や先生から教わったことでなく、きっと彼女自身思ったことなのだろう。
例え・・・作り話でも俺にとっては良かった。何故なら、彼女の言う通りとなっているのだから・・・。



「シスター・・・ありがとう。」

「そんな・・・お礼言われる事など私は・・・!」

「明日、手紙を出すと共にこの街を出て行く。
 いつまでも世話になってもいられないからな。」



驚くカルラに向かい、俺は苦笑して言った。
きっと、この日を境にこの場に居れば手紙のあて先が恋しくなると思って・・・。
それを察したのか、カルラは寂しさを忘れたような、ごく自然の笑みを零して言った。



「そうね・・・騎士さんは大切な人を守るのが仕事ですからね。」



あと・・・少しであった・・・。
徐々に星は消えて行き、山越えから空が明るいグラデーションに染められていく。



その時、教会の鐘が神聖な調べを響かせて朝を迎えた・・・。
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空乃 鴉
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これでも学生。
趣味は絵や小説を書くこと。

嫌な事が目の前にあるとネタの神様が降臨します。神様の存在はコレしか信じられない駄目人間←
コメント
[01/07 結音]
material by:=ポカポカ色=
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